EU危機の本質とそれを乗り越えるために必要なこと
ユーロ危機の本質は実は国家ナショナリズムにあることをはしなく露呈する内容である。 本書はギリシャ左派政権の行動を「反乱」と刺激的な言葉で形容するが、本書の要旨はEUという枠組みは過渡的な段階にあり、いまだに完成されていないためにいくつかほころびがある。
とくに域内単一通貨であるユーロの通貨構造によって産業強国が域内で威力を発揮しやすく、それがドイツの台頭にもつながっているわけだが、そうして域内に偏在する富を最終的に域内にある程度公平に分配するような仕組みが担保されていないことが問題であると指摘する。
また全会一致を原則とするEUの意志決定システムも問題で、これがために意志決定が迅速さに欠け、同時に国家ナショナリズムによって一国が自国の利害を声高に主張して譲らなくなると調整が難しくなる。
EUに見られるイギリスやギリシャの離脱問題はこうした現行のEUシステムの欠陥をつくものだといえるという。 イギリスはEUという枠組みをたくみに利用して自国に有利な立場を形成してきた側面もあり、そうしたイギリスの狡知の感じられるこれまでの行動についてもしっかりと記されている。
一方でドイツも自国に有利な枠組みを設定したり、インフレに対する歴史的トラウマを抱えているその金融論理をそのままEUに持ち込もうとする。
こうした構造は結局しかしユーロに対する強い支持という域内世論を覆すにはいたっていないとデータを示して著者は論じている。 そのうえで著者はEUがより強く域内の金融行政を統合していくことでこれらの問題は解決可能であると見ているようである。