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今日の金融不安の構造をわかりやすく解説している好著

時間かせぎの資本主義――いつまで危機を先送りできるか

 

 著者は冒頭で今日の世界経済の構造的不具合を簡潔に整理する。

 その要点は3つ。

 1)銀行危機

 世界中の銀行は身の丈以上の信用供与をしており、危機回避のために国家の監督官庁は銀行の融資に対する自己資本割合を高めようとする。 銀行はそれに対して信用供与の自制による縮小という対応を取るため、国家は経済を萎縮させないために不良債権を引き受けたり無制限の預金保証、資本注入などをして銀行を救済する必要があるが、借金だらけの国家にそれは不可能。 現状では個別銀行の破綻が銀行システムを通じて連鎖的に他の銀行へと広がり、連鎖する可能性がある。 そしてこの銀行の信用供与があまりに膨大で実態を把握できないために危機の大きさは推測するしかない。

 

 2)財政危機

 実体経済を底支えしてきたために生じた国家の膨大な債務は国家のデフォルトリスクを高めている。 しかし緊縮財政は経済停滞をもたらすため、もはや国家財政の処方箋としては有効ではない。 財政均衡と経済成長は同程度に国家債務削減に有効であり、緊縮財政は財政赤字を減らすことができるのかさえ専門家の間で共通認識はない。

 

 3)実体経済危機

 高い失業率、個人の借金の増大と増税実体経済を萎縮させている。 銀行は前述のようにすでに膨大な信用供与をしているので新規の融資には前向きでなく、しかも融資先や個人もすでに借金をしている状態にあるので以前に比べて貸し出ししづらい。 そして実体経済の萎縮はそのまま財政を悪化させ、国家歳出の引き締めという形で銀行危機に接続する。

 

    ◆◇◆

 

 驚くべき本書の内容はそれだけではない。

 以下の叙述を読めば、アベノミクスが進める雇用政策と女性活用、そこに置かれた日本社会の実態が非常に的確に表現されていると誰もが思うだろう。

 少し長くなるが引用する。

 

「一九七〇年代に開始された労働市場への女性の流入は西側世界のいたるところで観察されるようになった。少し前まではまだ賃金奴隷制として烙印をおされ、時代遅れだと宣告されていたものが、今や女性たちには家庭内の不払い奴隷制からの解放と受け取られた。平均的には男性に比べて支払い条件が劣っていたにもかかわらず、職業労働に対する女性の人気は以後も途切れることなく高まっていく。実際、職業労働に押し寄せた女性たちは雇用者側の頼もしい味方となった。というのも、企業は『アウトサイダー』である女性たちを利用して―男性である―『インサイダー』の賃金抑制を目論み、労働市場規制緩和を目指していたからだ。ちなみに女性就業率の上昇は並行して進んだ家族構造の転換と密接に関連していた。離婚数が増え、婚姻数が減り、それとともに子供の数が減少した。他方で、不安定な家族関係におかれた子供の割合が増え、それがまた女性の労働供給をいっそう高めた。」

 

 安倍政権の女性活用や一億総活躍とはその見た目の美しさと裏腹に、実際は伝統的な家族制度の破壊をもたらすものであり、しかもそうして破壊された家族制度の代替物は用意されていない。 安倍首相はその言葉に反して「美しい国日本」の在り方を欧米で経験されたような雇用格差の社会に陥れる政策を進めているのであり、近年異様に増加している児童虐待報道を見ても、伝統的な家族が減少しており、安定的な雇用に基づく家庭環境が営まれないためにひずみが生じていると考えられる。 児童虐待の裏側に貧困の問題も大きく横たわっていることにも注目すべきだ。

 

    ◆◇◆

 

 次の一言も興味深いので引用する。

 

 

「国家と市民という二つのアクターではなく、国家、資本、『賃金依存者』という三つのアクターを想定する拡張された正当性概念を提唱したい。今や、政治経済体制が自らの正当性を主張しようと思えば、単に民衆の期待に応えるだけでは不十分だ。資本、より正確にいえば利潤に依存する資本所有者・管理者の期待にも応えられなければならない。資本はもはや単なる装置ではなく、アクターとして登場する。体制が資本主義的なものである以上、資本所有者・管理者の期待は、現実には資本に従属する民衆の期待よりも、体制の安定にとって重要な意味を持つはずだ。」

 

 ここに国民の大切な資産である年金資産をぶっこんでも株高政策を進める安倍政権の本質が喝破されているといえるのではなかろうか。 民衆は賃金依存という形で経済的に従属されているので、最終的には資本にあらがうことができない。 したがってどれだけ民衆に不満が広がろうとも、政権はむしろ資本の側を向いて政策運用をすれば体制は安定するのである。

 

 そして現状の経済不安を正しく説明する以下の引用を読めば本書の価値はわかるだろう。

 

「資本主義における経済危機は資本側の信頼危機から生じる。だからそれは技術的な機能不全ではなく、独自の様式での正当性危機だといえる。低成長と失業は資本管理者たちの『投資ストライキ』の結果であり、したがって資本の再投下によって解決しうる。ただし資本所有者が信頼感をもちえないかぎりは解決しない。資本主義のもとでは、社会の資本は私的所有物だ。資本所有者はその資本を原則として自分の思い通りに利用することができるが、もちろん利用しないこともできる。いずれにせよ、彼らに投資を義務づけることなど不可能だ。…(中略)…とすれば経済政策を通じて危機を克服するということは、交渉を通じて二つの期待の間の均衡点を見つけることにほかならない。第一は資本所有者が抱く利潤への期待と社会への要求であり、第二は固定給与所得者が抱く賃金と就業への期待だ。」

 安倍政権は直接企業に投資を促そうとしている点で不可能な政策を進めているのであり、むしろ構造改革を通じて企業の在り方と雇用関係の調整をはかることこそが経済成長への近道である。 いわば状況を改善することにより投資を促すのが大切なのであり、企業側の要求をのんでそのかわりに投資や賃金上昇を期待しても、それは成功しない。

 むしろいびつになってしまった雇用関係を正常化し、企業の成長構造を新しい雇用関係によって後押しすることが求められる。 それに必要なのは企業減税ではなく、ベーシックインカム制などを通じた雇用の安定と創出策ではないかと個人的には考える。

 

    ◆◇◆

 

 本書はこうした鋭い分析のオンパレードでここから先ヨーロッパの事例を深く分析して、現代国家が実は国民以外に債権者という外部の存在を抱えていることに注意を促している。 なぜ安倍首相がウォール街に言って「BUY My アベノミクス」などという発言をするのかがこれによりよくわかるだろう。 読み応えがある本物の一冊だ。

 

時間かせぎの資本主義――いつまで危機を先送りできるか


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